厳島 神様のいるところ
海に浮かぶ真っ赤な鳥居。
日本三景のひとつ、かの有名な「安芸の宮島」にある厳島神社だ。
この「宮島」と「厳島」という言葉の使い分けだが、特にハッキリしていないという。
国土地理院の指定では「厳島」となっているが、町の名前は戦後に「宮島町」になっていたりと、呼ぶ人と状況によっていくらでも変わり得る。
本記事でも一部(「厳島神社」、「宮島口桟橋」など)を除いて両方の表記を用いるが、どちらも同じ意味と思ってもらって構わない。
「厳島」の語源としては、「神の居着く島」「神に斎く(=仕える)島」「祭神である『市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)』」などがあるようだ。
「宮島」の方は「お宮のある島」ということで江戸時代以降に呼ばれ始めたようだ。
宮島口から厳島へ渡る連絡船は「JR西日本宮島フェリー」と「宮島松大汽船」の2つがあり、桟橋を共有している。
値段も所要時間もさほど変わらないがコースが違っており、JRの方が、より鳥居に近づいたルートを通ってくれる(たまたま道を訊いた警備員のおじさんが教えてくれた)。
海の上から鳥居を眺めたり写真を撮りたい場合は、「JR西日本宮島フェリー」の「右舷(進行方向右側)」の「室外デッキ」に乗り込むと良いだろう。
運行時間も、JRの方が夜遅くまで運行している。
※宮島口桟橋が最も宮島に近い桟橋だが、他にも広島港や平和記念公園などからもフェリーが出ているらしいので、都合の良い場所から乗るべし。
船は本土を離れて広島湾へと繰り出していく。
と言っても宮島口桟橋は宮島の目の前にある。
写真の通り、右の本土から左の宮島まで約10分程度の船旅である。
浮いているのは牡蠣の養殖イカダだろうか。
皆が体を乗り出すようにしてカメラを構える先に、国宝にして世界遺産である厳島神社が見えてくる。
堂々たる厳島神社の勇姿。
この日のこの時間はすでに水がひき始めており、いち早く鳥居に近づこうとする人々の姿が見えている。
船は鳥居の横を通りすぎて宮島桟橋へ到着。
ちなみに「みせん丸」という船だったが、この「みせん」とは宮島最高峰の「弥山(みせん)」から取られている。
標高は535メートルの小さな山だ。
島にはそこら中に鹿が溢れている。
呑気な面構えをしているが、紙などを持っていると不意に喰いつかれることがあるので注意だ。
かつてこの鹿による植物や人への被害が増加したため、現在は綿密な計画のもとに「エサやりの禁止」や「山へ帰す」などの管理対策が採られており、沿岸部における鹿の頭数は随分と減ったという。
ただし現在でも「動物虐待だ」などと主張している一部の人間たちが勝手に餌を与えたりしているらしく、動物対人間の問題はいつの間にか人間対人間の問題へと移行しているようだ。
多くの旅館や商店街のアーケードなどを通り過ぎると、美しい瀬戸内の海岸に出る。
巨大な鳥居を抜け、さらに神社へと近づいていく。
これが厳島神社の全景だ。
大分水がひいているが、満潮時にはあの社殿の下まで海水に浸かることになる。
神社については有名過ぎるので、特筆すべきこともないだろう。
筆者も実のところ二度目の訪問なので、さしたる高揚感もなかったというのが正直なところだ。
アミューズメントパークでもなし、こういうところは人生に1,2回訪れるくらいが丁度いいのかもしれない。
神社を出て周囲をぐるりと探索して戻ってくると、すでに水が完全にひいて観光客が鳥居に殺到していた。
前回の訪問時は鳥居には近づけなかったので、先ほどとは打って変わって意気揚々と近づいてみた。
迫力のある大鳥居だ。
奥に見えているのはフェリー乗り場のあった広島湾西岸。
つまり写真右手方向が北になる。
近づくと観光客が鳥居の足元で何かをやっているのに気がついた。
お分かりいただけるだろうか。
なんと鳥居の根本にせっせと硬貨を埋め込んでいるのだ。
フジツボの間に埋め込んでいるのはまだしも、木柱の切れ目にグイグイと押し込んでいる人も多くいる。
「これが由緒正しき厳島神社の参拝方法なのか」と疑問に思い、すぐにiPhoneでインターネットを走らせた。
案の定、神社側は大変迷惑しているということだった。
割れ目に硬貨を差し込むと亀裂が拡大して老朽化が加速するという問題があり、定期的に除去してもまたすぐに観光客が差し込んでいくのだという。
むかしから鳥居の下の海面に向かって賽銭を投げるという習慣があったようだが、それが度を越して硬貨を直接ねじ込むという悪質な形に変わっていったのだ。
質が悪いのは、観光客はこれを幸運のための行いだと思ってやっているということだ。
だが神社に破壊行為をして幸運を願うなど、笑止千万である。
足元にも大量の硬貨が散らばっており、潮が満ちると瀬戸内海へと流れこんでゆく。
無自覚な破壊行為を止めるための具体的な策はまだ無いようだが、あるいはそのうち鳥居に接近することが禁止されてしまうかもしれない。
貴重な文化財を近くで見ることが出来る機会を失わないよう、自分と周囲の人間にぜひ注意を促してもらいたい。