週刊 日本を歩く

管理人が日本で見つけた物をフリージャンルで紹介します。 「週刊」と銘打ってはいますが、更新頻度はまちまちです。 日毎もあれば月毎になることもあります。 なにはともあれ、お付き合いください。

大久野島 地図から消されたウサギの楽園

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呉市から瀬戸内海沿いを車で東へ一時間余。

「毒ガス島」で有名な大久野島のある竹原市へと向かった。

 

 

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大久野島は瀬戸内海に浮かぶ小島だ。

渡るにはフェリーを必要とするが、繁忙期には「たけはら海の駅」からチャーター船が出ているため、GWの今回はこちらを利用した。

 

※定期便も出ているが、一長一短だ。

チャーター便:呉市から見ると、定期便の港より10km弱手前で乗れる。

定期便:チャーター便より少し遠いが、値段はかなり安い。

具体的にいうと、チャーター便が大人往復1700(片道900)円なのに対し、定期便は大人往復620(片道310)円と3分の1程度で済むのだ。

下に各フェリーのリンクを貼っておくので、訪問する時期と日程と相談しながら都合のいい方を利用してもらいたい。

 

定期便:運賃表(H26.4.1から) | 大三島フェリー株式会社

チャーター便:たけはら海の駅~海・ひと・味の交差点~

 

関西方面の方は、しまなみ海道の途中にある大三島(にある「盛(さかり)港」)が定期便の寄港地になっているので、わざわざ竹原市まで来て高いチャーター便に乗る必要はないだろう。

ただし竹原市自体も綺麗な観光地なので、その観光ついでにチャーター便で大久野島を訪問するという考え方もアリだ。

 

 

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たまゆら」というアニメの舞台になったらしく、随所で映画の宣伝がしてあった。

フェリーの胴体にまでプリントしてあったので、中々のプッシュ具合である。

 

 

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なお前述のとおりチャーター便は定期便よりも呉市側で乗れるので、大久野島までの距離が少し遠くなるが、時刻表を見る限りでは乗船時間(15~20分程度)はあまり変わらないようだ。

 

定期便は大久野島に一番近い「忠海(ただのうみ)港」から乗る。

チャーター便は島から少し遠い「竹原(たけはら)港」から乗る。

乗船時間があまり変わらないのは、チャーター便の方が高速艇(写真の船)だからだと思われる。

そのため途中えらく飛び跳ねることもあったので、船酔いとも相談して欲しい。

※同乗した観光客たちの中に船酔いになっているような方はいなかった。

 

 

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そんなこんなで島に到着。

前日とは打って変わって好天に恵まれた。

 

 

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瀬戸内の美しい海が我々観光客を出迎えてくれた。

 

 

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「毒ガス島」と呼ばれた大久野島は全周約3.3kmの小さな島だ。

かつて瀬戸内を守るために島全体が要塞化されており、その名残が今でも随所に残っている(芸予要塞)。

要塞としての役目を終えた後、第二次世界大戦中には旧日本軍による毒ガス研究・製造の拠点として存在し、機密のために当時発行されていた地図から抹消されてしまったという曰く付きの島だ。

 

島を「一周するだけ」なら徒歩でも充分可能だ。

写真右端のところ、切れてしまっているが、「待合室」と書かれたところにあるのが「第二桟橋」だ。この第二桟橋から写真左下部の「休暇村本館」と書かれている場所までが約15分ほど。

……どうだろう、歩いて観光するのが容易に感じられないだろうか?

 

しかし「戦争遺跡を巡る」となると多少の覚悟を持ったほうが良いだろう。

というのも、島に残る砲台跡などは見通しのいい場所に作ってある。

島で見通しのいい場所、となればそれは必然的に「山の上」となるからだ。

このことについては後述する。

 

 

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毒ガスと並ぶ、大久野島の特徴といえばこのウサギたちだ。

本当に島中どこにでもいる。

島を歩くと人気のない細い道を通ることもあるが、そこにも小奴らはデンと居座っているので、心細さは感じなくて済むだろう。

 

※なお、この大久野島のウサギについて「毒ガスの実験用に連れてこられたウサギが繁殖した」という噂が広まっているが全く関係なく、戦後に島外の小学校から飼いきれなくなった8羽が持ち込まれ、それが繁殖したものだという。

実際に実験に使われていたウサギは全て処分されている。

 

 

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ウサギと接するに当たってこのような注意書きがある。

一体何人がこれを読んだかは分からないが、とにかく触ったり餌を与えまくってはいけないという勧告だ。

残念ながらこれは守られていないようで、ウサギの周囲には無数の野菜の食べ残しがあちこち散乱していた。

島内では餌の販売はしておらず、前述のフェリーターミナルで売っていたり、観光客が持参したものがほとんどらしい。

 

ウサギは水分がないときに餌を与え過ぎると胃袋が詰まって死んだり、余った餌を目当てにカラスやイノシシの出没が問題になっているという話なので、ウサギに餌を与える際には充分に配慮してあげて欲しい。

 

ちなみにこの島のウサギは「アナウサギ」といって「世界の外来種ワースト100」に選ばれている有害種である。

これだけの繁殖力を見れば、それも頷けるだろう。

 

 

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桟橋から少し進むと、すぐに「大久野島毒ガス資料館」が見えてくる。

 

 

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ここでは、この島の歴史を追う形で旧日本軍による毒ガス研究や、世界の毒ガス使用被害などを知ることができ、他所ではできないような貴重な学習ができるはずだ。

 

入館料は19歳以上100円、19歳未満50円とリーズナブルだが、内部は撮影禁止。

入って左に展示室、右に閲覧室といった配置でそれほど広くないので、時間がなくてもさらっと見て回ることは出来ると思う。

せっかくの機会なので、是非ご覧頂きたい。

 

 

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資料館脇には実際に毒ガス製造で使用された設備が展示されている。

 

 

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南国然とした木々が強風に煽られている。

この写真の右手前に「瀬戸内海国立公園大久野島休暇村』」という宿泊施設があり、滞在だけでなく種々のレクリエーションが楽しめる。

 

 

 

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案内板に従って山の頂上を目指すことにした。

特に山の名前は決まっていないようで、案内板にも「展望園地」としか書いていなかった。

一部では「ひょっこり展望台」とも呼ばれているようだ。由来は不明である。

なお島内にはレンタサイクル(貸出自転車)があり、最初に預り金1000円(自転車返却時に返還)を渡せば2時間ごとに400円で利用可能だ。

アシスト機能付き自転車も同500円で利用可能なので、徒歩でもツライという方でも簡単に島を回ることが出来る。

ただし後の写真を見ていただければ判るように、自転車を利用すると一部の山道などが通れなくなるので、その点だけ注意してもらいたい。

 

※実は大久野島の大部分はグーグルマップのストリートビューで見ることができ、画面をクリックするだけで周囲を見ながら仮想登山することが出来る。

登りが心配な方は、ストリートビュー登山道を仮想的に歩いてみるのをオススメする。

Google マップ

 

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標高が上がるにつれ土の色は薄く、緑の量は減ってゆく。

ちょっとした登山だが、他の要塞跡へ行く道はほとんどが舗装された太い道なので、このような険しい道は頂上へ向かう時だけだ。

 

 

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上にはとてつもない高さの鉄塔がそびえている。

中国電力の運用する「中四幹線」を支える大鉄塔だ。

中四幹線は本州と四国を結ぶ海峡間送電線である。

 

 

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製作業者・施工業者には日本のインフラや重工業を支える錚々たるメンバーが名を連ねている。

この226mの鉄塔は送電鉄塔としては日本一だそうで、横断図を見ると、本州側にも同じ高さの鉄塔があるのが判る。

今日も日本の電気をありがとう。

 

※ちなみにこの送電線の位置はもっと島の北方のはずで、最初に登った山の上にはもう少し小さい鉄塔が立っていたと思う。

順番の記憶が曖昧になったため、早めの紹介とした。

 

 

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山の上には中部砲台跡がある。

かなり美麗な外観を残しており、歴史学習目的以外にも訪れて損はないと思う。

 

 

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日露戦争に向けて急ピッチで建設が進められ、愛媛県の小島(おしま)とともに芸予要塞として1902(明治35)年に完成した。

1924(大正13)年に廃止となるまで一度も戦火に見舞われなかっただけに、100年以上前の赤レンガが非常に良い状態で残っている。

 

瀬戸内海のこんなところまで対露要塞が築かれていたとは、いかに当時の日本がロシアに対する恐怖心が大きかったかが窺い知れる。

小島の要塞もかなり状態良く残っているようなので、いつか訪れてみたいものだ。

 

 

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各部屋は内面白塗りで、意外に明るい空間が広がっている。

 

 

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入り口に近い方は100年以上の風雨のせいか、奥よりも白地の剥げ具合がひどくなっている。

 

 

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すべての部屋ではないが、いくつかの部屋は奥の通路でつながっている。

写真左手が部屋の入り口方向になる。

要塞の廃止後は毒ガスの保管所としても使用された。

 

 

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各砲台に写真のような階段がある。

兵士の移動のために作られたもののため、手すりも無く少々危ない。

もし登る場合には足元に十分注意してもらいたい。

 

ここからは島内の見どころを連続で掲載していく。

 

 

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毒ガス兵器という人類史の暗部と、ウサギの戯れる瀬戸内の楽園という二面性を持った島。それがこの大久野島だ。

 

しかしそれらよりも古い、要塞にまだ芸術性が伴われていた時代の名残を残すこの島に、みなさんもぜひ一度足を運んでみてはいかがだろうか。

 

 

きっと各々の目的に合った充実した時間を過ごせることだろう。

 

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